八代尚宏『働き方改革の経済学』

働き方改革関連法案が可決されて、来年4月から順次施行されることになりました。

働き方改革は社会構造の変化を必要とするため、大きくは政策論の問題です。又、実現に向けては企業や官公庁による具体的な取り組みが求められ、個人としては時間生産性を重視した働き方へ切り替えることが重要になります。

働き方改革は電通事件(高橋まつりさん過労自殺/労災認定・社長辞任・幹部書類送検)が起きてから本格化しました。当初は反対意見も多く、玉石混交な議論がありましたが、今では働き方改革の方向性自体に異論は出なくなり、一般用語となって定着しました。

そうした余波で、私のところにも働き方改革の講演依頼が急増しています。依頼の中身として、以前は制度の解説や事例紹介を求められることが多かったのですが、ここ最近は一人ひとりの実践に焦点をあてた内容が中心です。

自分らしくいきいきと働くことで個人と家族がハッピーになり、会社にもメリットがある。そうした世界観を共有しつつ、「働かせ改革」ではなく「生き方改革」への実践につなげたいところです。

法案が可決され、あらためて働き方改革の本質について研究しようと昨年秋に発刊された『働き方改革の経済学』を手に取りました。働き方改革のイシューが網羅され、八代先生の切れ味ある解説によって構造の理解が深まります。

本書の内容は、目次一覧をご覧いただくのが一番分かりやすいと思いました。私の関心事は「第4章 残業依存の働き方の改革」と「第6章 女性の活用はなぜ進まないか」です。ほか、定年制や人事部の問題など様々な要素が絡んでいると理解できました。

第1章 日本の労働市場の構造変化
1.経済成長の制約要因
2.経済環境変化への対応
3.人手不足でなぜ賃金が上昇しないか
第2章 解雇の金銭解決ルールはなぜ必要か
1.日本の雇用契約の特殊性
2.日本の雇用規制の現状
3.解雇の紛争解決の手段
4.解雇無効時の取り扱い
5.解雇の金銭補償ルールをめぐる政治的対立
第3章 竜頭蛇尾の同一労働同一賃金改革
1.年功賃金を維持したままでの「同一賃金」は論理矛盾
2.働き方改革ガイドライン
3.同一労働同一賃金は賃下げを意味するか
4.同一賃金実現のために必要な法改正
5.労働契約法の2018年問題
第4章 残業依存の働き方の改革
1.日本の長時間労働の現状と問題点
2.労働時間規制の問題点
3.時間に囚われない働き方へ
4.テレワークの活用
5.労働法違反への監督体制強化を
第5章 年齢差別としての定年退職制度
1.高齢者就業の現状
2.定年退職制度はなぜ必要か
3.付け焼刃の高年齢者雇用安全法
4.定年退職再雇用者の賃金格差問題
5.年齢差別をどう克服するか
第6章 女性の活用はなぜ進まないか
1.女性就業の現状
2.夫婦共働きという働き方を基本に
3.男女間賃金格差の現状と要因
4.女性が働くと損になる仕組みの改革
5.ワーク・ライフ・バランスと矛盾する日本の雇用慣行
第7章 人事制度改革の方向
1.日本の人事部の特徴
2.政府の働き方改革への対応
3.人事評価の3点セット
4.女性の管理職比率引上げの意味
5.市場原則で決める管理職ポスト
6.人事部は人材サービス事業部へ

私は組合からの講演依頼が多いのですが、なるほど!とうなづいたのは次の箇所。(同書P7より引用)

しばしば外国のマスメディア等から、ストライキをしない日本の労働組合を「御用組合」と呼ばれることがあるが、これは単純な誤りである。

企業別労働組合の主な役割は、短期的な賃金引き上げよりも、企業に自らの財産を預託する「暗黙の出資者」としての労働者の利益を守る、いわば機関投資家に近い存在であり、自らの財産を損ねるストライキは愚かしい行為となる。

また、企業が利益を蓄積し組織が持続的に拡大すれば、労働者にとっても豊富な昇進ポストが開ける。現に日本の大企業の経営者の9割以上は内部昇進の「成功した労働者」であり、株主への利益配分よりも内部留保を蓄えることを優先することは不思議ではない。

先日、労使共催の働き方改革セミナーで先日伺った会社で、人事部長と挨拶した際「前は組合の委員長をしていました」と言われて驚いたのですが、不思議なことではなかったのですね。

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