ベテラン、がんばっていきましょう。イチローの失意と泰然

コンビニで見かけた『Number』最新号の見出し、[イチロー「失意と泰然」]の文字が妙に気になり、購入したのは先週のこと。

前号は大谷翔平特集で、そちらも偶々買っていました。

Number(ナンバー)950号 [特製“二刀流”表紙] MLB 2018 DREAM OPENING 大谷翔平夢の始まり。 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))

やはり、イチローの方が個人的に気になる存在と実感しながら読みました。

なかでも石田雄太さんと小西慶三さんの記事は、長年追い続けているイチロー選手に対する愛情と深い洞察があって読み応えがありました。

でも、「なぜ今イチロー特集?」という疑問は湧きます。

「イチロー」で検索してみると、地元メディアが「引退」の宣告を告げる記事が散見。
まさか?!と思いました。

Numberを改めて読み返すと、引退を否定したい側の気持ちが随所に現れていました。
例えば、小西さんの記事結びの一文。

少なくとも本人には”これが最後”という意識は全くない。

私も引退を信じたくない側の一人でした。

そして、5月3日の試合でイチロー選手がスタメン出場を果たし、引退の噂は解消されたのだと安堵しました。

試合の速報を随時ネットでチェックしました。ヒットなしで試合終了。最終打席は一打逆転のチャンスで空振り三振だったと知りました。なんとも寂しく、残念な思いがしました。

この試合で活躍できていたら、引退の噂なんて消し飛んだのに。

そんな矢先、翌朝のニュースはイチロー選手の事実上の引退を報じていました。

◆スポニチ「イチロー 会長付特別補佐に」(2018年5月4日朝刊)

メジャーリーグに詳しくない私が、このニュースを論評する言葉や資格はありません。

人材育成を専門とする立場の人間として、Numberに掲載された豊田章男氏(トヨタ社長)の記事は非常に響くものがありましたので、一読を勧めたいです。

「豊田章男 イチロー選手が教えてくれたこと。」より一部転載。

実は今年4月2日、トヨタ自動車の入社式で、イチロー選手から新入社員に向けて、こんなメッセージをいただきました。

「うまくいっていないチームほど、『自分に自信をもて。チームメイトを信頼しろ。やるべきことをやれ』と言います。しかし、この3つをできている人はほとんどいません。

頑張っていないと自分に自信はもてない。頑張っているチームメイトを見ないと信頼はできない。やるべきことがわかっている人は、実はほとんどいない。みんなには、自信がもてる自分、チームメイトから信頼される人間、やるべきことが自分で見つけられる人であってほしいと願います。」

この言葉は、トヨタに関わる全ての人に向けてのメッセージにも聞こえます。

(中略)

実は、イチロー選手のメッセージには、続きがありました。新入社員の上司、先輩たちへのメッセージもいただいたのです。

「僕も最近はベテランと言われます。野球界では40歳前後が定年という価値観が今も残っていますが、僕にとっては大きな疑問です。人は僕が50歳までプレーすると思っているようですが、『最低50歳』という意味です。肉体も含めて環境の変化に適応できれば、経験値が積み上がっている分だけ、毎年キャリアハイを残せると思っています。

様々な寄り道をして、遠回りに見える道が、実は最も近道で味わい深いものであるような気がします。

会社の中では、思い通りにいかないことが多いと思います。それでも自分が本来やりたくないことでも本気で向き合い、好きになろうと努力し、最後は本当に好きになって結果を出している人のこと、僕はすごいと思っています。

ベテラン、がんばっていきましょう」

私もアラフィフになり、本人が望む望まないに関わらず、ベテランと見做される年代になったと自覚します。

「ベテラン、がんばっていきましょう」のエールは、私にも届きました。

ベテランとは、壮年期。

エリクソン博士のライフサイクル理論によれば、壮年期となる36〜55歳のテーマは「世代性(ジェネラビリティ)」を生きること。いつまでも「俺が俺が」でいると停滞してしまい、次世代へ継承することが発達課題となる年代です。

「50歳までプレーする」と言い続けていたイチロー選手は、世代継承というライフサイクルのテーマを受け入れた。そう、私は受け止めました。

以下、佐々木正美先生の本からエリクソン理論の壮年期を解説した内容を引用。

壮年期のテーマは、世代性を生きることです。前の世代の人から、その人たちが生み出した文化を学び、継承する。そしてそのうえにさまざまな業績や創造をつみ重ねて、新たに生み出したものを、自分たちが生きたあかしとして、次の世代の人たちに譲り渡す。こういう生き方ができたときに、幸福な壮年期をすごせます。

(中略)

研究者や教育者は後進に対して、ここまでの研究はすでになされていると伝えますよね。ここから先、きみならこういう方面にいったらどうだと指導をするでしょう。指導をつづけていって、やがて引退していきます。そのとき、自分の業績を引き継いでくれる次の世代に恵まれていれば、それは幸福な生き方ですよ。

エリクソンはそういう幸福な生き方のことを、世代性を生きると言いました。見事な洞察です。

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