マルコ社『子どもの経済力を決める父親からの問いかけ』

父親が育児する効用について、海外の研究をもとに解説する新しいタイプの育児書です。

父親研究の紹介と具体的なハウツーの解説で、とっつきやすい内容でした。

まえがきに、次の説明があります。

本書ではどのような点に注意して子どもと家庭内でコミュニケーションを取れば、「やり抜く力」「問題解決力」「挑戦意欲」「自己主張」などといった、将来の経済力につながる能力が育まれるのか、問いかけるときのコツを専門家の方々に取材し、まとめています。いずれも特別な技術を必要としない、簡単にできるものばかりです。こうした問いかけを日々の生活の中で実践しながら、少しでも父親の育児参加が増え、父性的な育児について考える一助になれば幸いです。

個別の内容は、見出しの文章を見ていただくと伝わると思います。研究者の名前も列挙します。

  1. 民主的な育児スタイルを父親の元では最後まで「やり抜く力」が育まれる
    ブリガム・ヤング大学 ラウラ・バディリア・ウォーカー准教授
  2. 生存のための技術や問題解決の技術を父親は子どもに多く教える
    カリフォルニア大学
  3. 父親の愛情不足で育つと攻撃的で感情が不安定になる
    米・コネチカット大学 人類学者 ロナルド・ローナー氏
  4. 成長期に父親とたくさん交流した子どもは挑戦意欲が高い
    オックスフォード大学の研究チーム
  5. 父親が積極的に子育てに参加した場合 子どもの言語能力が高い
    セラピストのマリエ・ウォーカー博士
  6. 子どもの社会的発達、精神的発達、知的発達に永続的な良い効果を与える
    アメリカ合衆国 保健福祉省
  7. 子どもに積極的に話しかける父親の元で育った子どもは、言語能力が発達している
    ノースカロライナ大学
  8. 父親の育児支援は子どもの健康的な成長を助ける
    アメリカ合衆国 保健福祉省

父親が育児することで子どもの成長発達に良い影響を与える。そうした事実を知らしめることで育児に関わる男性を増やしたい。その趣旨は賛同します。

でも、なんだろう。なんか違和感がある。

違和感の一点目は『子どもの経済力を決める父親からの問いかけ』の題名です。これは単に、プレジデントファミリー的なタイトルが好きではない、という私の好みの問題です。

二点目が、帯にある表現「父親にしかできない 稼ぐ子どもの育て方」「父親の育児が将来の子どもの経済力を左右する」が言い過ぎじゃない?と引っかかりを覚えます。

父親研究を志す私が言うのは変かもしれないですが、父親の育児は母親の育児を凌駕するほど凄いものなのか? という疑問符が湧きました。

それに、父親がいない家庭に対して配慮の欠ける表現であると感じます。

まえがきに「シングルマザーの家庭では、子どもに経済力がつかないというつもりはまったくありません。母親と父親の育児に優劣をつけたいわけでもありません」と補足が書かれていましたが、それでもやはり思慮が足りない気がします。

三点目の違和感は、親の思惑どおりに子どもは育たない、という親としての実感です。そして、親の思いどおりにならないところに、子育ての醍醐味があるのだとも思います。

子どもの特性はそれぞれであり、「こうすればこうなる」といったものではない。インプットしたものが機械的にアウトプットされるものではなく、子育ての結果がでるまでに数十年の時間がかかります。

そして何よりの違和感は、メリットを訴求して人を動かそうとする行為が浅い、と感じてしまうことです。

こうしたことを書いている私自身も、パパ向け講座でよく「父親が育児するメリットは何ですか?」と問いかける演習を行います。狙いは、父親の育児のあり方を考えてもらうことにあります。

あるとき、講座に参加していたママから反論されたことがありました。

「メリットがないと父親は育児しないんですか?!」

おっしゃるとおりと思いました。育児は、メリットのあるなしで「やる or やらない」を決めるものではありません。

そのときは「理屈で理解できると動ける男性が結構いますから」と答えましたが、大いに反省し、以後この演習をするときは注釈を加えるようにしています。

本書の中身そのものはエビデンスに基づいて書かれており、説得性を高めた内容になっています。内容の違和感はさほどでもなく、売り出し方のアプローチが惜しいと感じました。

又、引用文献リストに、この分野(父親の発達心理学や家族社会学)では欠かせないであろいう、柏木恵子先生や石井クンツ昌子先生ほか権威の方々が見当たらないのも解せません。学術書ではないから構わないのかもしれないですが。

そして、もしファザーリング・ジャパンに出版前に相談があったとしたら・・

「父親の育児参加はNG」とダメだしをしたのは間違いない。

「育児参加」の表現をみた瞬間に、「この著者(性別不明)は育児していない人だ」と思ってしまいました。

もちろん当事者ではない方が本を書いてもよいと思うのですが、ちょっと惜しい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA