新しい個人/地域/夫婦のあり方に希望〜『育児は仕事の役に立つ』がオススメです

日本では、街は安全で、ご飯はおいしく、経済の低迷が続いているとはいえ、世界の中ではまだ相対的に豊かです。しかしながら、そんな平和な時代もついにおわりを告げようとしています。安寧の日々が続くのもせいぜい2020年まで。それに前後して、日本は確実に修羅場が訪れます。

(佐々木紀彦『日本3.0』)

劇作家の平田オリザさんは、近著でこんなことをいっています。「まことに小さな国が、衰退期をむかえようとしている」と。これは司馬遼太郎の『坂の上の雲』の出だし部分をもじったものです。そんな、元気の出ないことをいわなくても、と思われるかもしれません。でも、私たちが生きる日本という国は、平田さんがおっしゃるような現実を見据えなければならないところにまで来てしまっているのではないでしょうか。

(牧野篤『「つくる生活」がおもしろい』)

私たちの社会は、「高齢化」と「仕事人生の長期化」に向き合っていかなければならない。健康寿命が延びて高齢化が進み、しかも、どんどん労働人口が減っているわけですから、わたしたちの仕事人生がますます長くなってくるということですよね。そこが、我々の親世代と大きく変わるように思います。

(浜屋祐子、中原淳『育児は仕事の役に立つ』)

日本社会の将来を考察すると、修羅場が数年のうちに訪れるのは避けられないと思わされます。2020年の東京オリンピックまでは景気がもつかもしれませんが、その後の市場縮小で日本経済は地盤沈下しそうです。超高齢社会に伴う福祉負担増と生産人口減少による税収減で財政破綻する自治体も現れるでしょう。

これまで経済発展を支えた社会構造を維持しようとしても、この先もちそうにありません。現代は、成長・平和な時代から成熟・衰退期へと移行する過渡期です。変化を受け入れて具体的に対処することが求められるのですが、企業・地域・家庭・個人のそれぞれが従来のやり方で続けることに限界がきており、いっぱいいっぱいな状況にあると感じます。

そうした問題意識をもちつつ、この数日セレクト読書したなかで、従来のやり方、つまり企業依存/行政依存/妻依存ではないあり方をとる個人・地域(コミュニティ)・夫婦が胎動していることを知り、希望が見えました。

新しい企業と個人のあり方については、佐々木紀彦さんの新刊が勉強になりました。リベラルアーツを学ばなければと思い至りました。

行政依存ではない地域社会のあり方は、牧野篤先生のご著書が私のバイブルになりました。タイトルは軽めですが、中身は骨太です。

とりわけ注目は、新しい夫婦の育児行動をフィーチャーした『育児は仕事の役に立つ〜「ワンオペ育児」から「チーム育児」へ』

東大院生の浜屋祐子さんが共働き夫婦を対象に研究された調査内容が基になった本です。中原淳先生との対談形式で、読みやすく解きほぐされた文章になっています。育児と仕事をとりまく社会構造の変化と、共働き夫婦が現実どのように対処しているかについて、分かりやすく解説されています。

従来の育児は妻依存で、「男は仕事、女は家庭」という考え方がありました。しかし、夫婦世帯の6割が「共働き」で、性別役割分業は時代遅れになっています。中原先生が次のように述べています。

僕はそのうち共働きが当たり前になって、「専業主婦」という存在はなくなるのではないかとさえ思っています。歴史的に見ると、夫だけが働き、妻が専業主婦という「片働き」は、高度経済成長期という「昭和のある一時期だけの特異な現象」だったのではないかと思えるのです。

もちろん、専業主婦が「ダメ」だとか、そういうことを言いたいわけではありません。社会の変化に応じて、仕事の担い方、育児のあり方も変わってくるということです。(P40)

イクメン・イクボス、女性活躍推進といった施策が展開されています。しかしながら、社会情勢がどうあろうと、夫婦にとって(とくに妻に)重要なのは「私は&私たち夫婦は、育児と仕事をどうこなしていくのか」という家庭内個別問題。その鍵となるのが「チーム育児」です。

共働きしながら育児する人が増加する中で、育児というものは、母親がひとりで抱え込む「ワンオペ育児」から、父親と母親、さらには祖父母、親戚、保育園などさまざまなサポートを得て行う「チーム育児」へと移行することが必要になってきています。(P76)

チーム育児になった瞬間から、「どんな育児を達成したいのか」「どのように情報を共有するのか」。で、「誰がどういうふうに何をやるのか」ということを、ふたりで話して決めなくてはいけない。「ワンオペ育児」の場合は、ひとりで完結してしまっているからこのプロセスは必要なかったわけで、ここで育児の意味がちょっと変わってくるのだと思います。(P84)

育児がチームで行うプロジェクトとなった瞬間に、親同士の調整という要素が入ってくるし、さらに共働きになってくると、自分たちだけでは担えないので、父親、母親、外部という3項関係の中で、育児を達成しなければいけなくなる。そうなるとさらに育児は、チームプレーになってきます。(P86)

もう一つポイントとなる考え方は、「育児 × 人材開発」という意外性のある組み合わせ。ワンセンテンスでいえば「育児は仕事の役に立つ」

浜屋さんの調査によれば、チーム育児の実践によってリーダーシップ能力が向上するとともに、業務能力、/部門理解促進/視野拡大/タフネスなど働く上での能力向上全般に効きます。

チーム育児には、子育て世代が最も高めておきたいと言われる「リーダーシップ能力」の向上に効果があることが実証されました。もちろん、リーダーシップ能力を高める最大の要因は、仕事の経験であることは言うまでもありません。しかし、ともすれば「仕事の邪魔」くらいに思われがちな育児にも、それをもたらすきっかけはありそうだということがわかりました。同様に、仕事上の「能力向上」を高める効果も見られました。

このことにはふたつの意味があると思っています。

ひとつは、仕事がなかなかできずに後ろめたい気持ちで仕事をしている、子育て世代の福音になることです。あなたがいまやっている育児も、長い目で見れば、あなたのキャリアや能力の発達に対してポジティブな効果を持っている。そのような思いを個人が持てることが重要なのではないでしょうか。

もうひとつの意味は、会社や組織に対するメッセージになるということです。育児に関わっている人は、組織の側から見れば、仕事とは無縁のプライベートに関わっている人と見なされがちですが、それは違います。彼らは、育児をしながら、仕事でも活用できるものをしっかり学んでいます。だから、少しだけ中長期のスパンで彼らをみてあげてほしいのです。(P150)

そして、個人・夫婦・家庭・地域・行政・企業のそれぞれが変化に対処するために、長時間労働を止めることが欠かせない、という点で一致したことも注目に値します。

「長時間労働」は是正し、「長期間労働」する方向に変わっていくというのが、共働きの未来なのではないかなと思いますね。100メートル走じゃないんです。仕事人生は「マラソン」なんです。(P235)

俯瞰的に現状を見つめれば、そうした方向(働き方改革)に世の中が動いていることがわかりますね。目指しているのは、国や企業や組織が丸抱えするのではなく、個人にも「イニシアティブ」を持って「働くこと」に向き合ってね、ということだと思うのです。それも、夫婦でしっかりと話し合って、何とか生き抜いてね、と言っているのだと思います。(P236)

中原先生のメッセージが心強くて、引用しすぎたかも。(怒られないかしら・・)

他にも、チーム育児がもたらす親の人格的な成長や、育児をふりかえるリフレクションの重要性、ヘルプシーキングの発想などなど、いくつもメモした事柄があるのですが引用ばかりになってしまいそうなので、この辺りで。

興味をもたれた方がいらしたら、本書をお手にとっていただければ。

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