谷俊子『ワーク・ライフ・バランスとケアの倫理−イクボスの研究』

不思議な本である。

何が不思議かといえば、副題に「イクボスの研究」と付いているのに、「イクボス」の文字が本文に見当たらない。

私は随時、「イクボス」のニュースや情報をチェックしています。数ヶ月前に本書の情報を検索で見つけ、ずっと気になる存在でした。

ただ、私がよく行く池袋ジュンク堂や丸の内オアゾなどの大型書店で探しましたものの、置いていない。店員さんに尋ねると、静岡の書店にしか置いていなかったようで(発売元は静岡新聞社)、取り寄せました。

本書を一読し「イクボス」が出てこないので??と思いました。271ページの本を三度読み返しましたが、出てこなくて、???。・・タイトルは編集者がつけたのかもしれません。

でもハズレだったかといえば、そんなことはなく。ワークライフバランスの現状や支援のあり方について「ケアの倫理」の観点で分かりやすく解説がなされ、勉強になった箇所が多々ありました。

又、私が大学院で修士論文を書くにあたって、質的調査のまとめ方が参考になりました。企業の子育て支援に関して、35人の従業員にインタビューした調査の結果が詳述されおり、それぞれ興味深い内容でした。

筆者は社会人入学で大学院に入り、経営倫理学を学ばれたとのこと。筆者がお勤めだった会社に昔、コンプライアンス研修で伺ったことがあり、もしかしたら接点があったかも?と思いながら、親しみやすい本文を読みました。

以下、あとがきの文章を引用します。

企業にいた頃、聴覚や肢体など身体に障害のある人に関しては一定の雇用を推進できていましたが、さらに知的障害のある人たちの雇用を拡大するために特例子会社を設立しました。筆者はその新しい子会社に出向を願い出て、知的障害のある社員と一緒に働いてきました。
(中略)
子会社の社員たちは、毎日会社で働くことが楽しいようで「なぜ土日は会社に来てはいけないのですか」と言い出す者もいました。働いた給料でおしゃれな洋服を買ったり、旅行をしたり、福祉作業所で働いていた頃にはできなかったことが可能になり、社員たちは以前より明るく自信をもった若者に成長していきました。

彼らがいきいきと働いている姿に接し、筆者も原点にかえり「働くことの意味」や「人間の生きがい」について深く考えるようになりました。

働き方改革は、単に「早く帰りなさい」「休みなさい」の話しではない、と教わった気持ちになりました。

筆者が研究をする上で大切にしたいのは、やはり働く人々の生きがいや喜びです。もちろん利潤を追求することが企業の使命として第一番目に大切なことはわかっています。企業は従業員の喜びを生み出すために存在しているわけではありませんが、できる限り両立する方法はないものか、考えることを続けていきたいと思っています。

そして働く人々が生きがいや喜びを感じられる企業は不祥事を起こす可能性も低く、結果的に長期に安定して存続していく、という立場から発言をしていきたいと考えています。

従業員の「生きがい」「喜び」、そして「幸せ」のために企業は事業をしているわけではありませんが、そうした価値観をもつ企業こそが存続する社会であればいいなと切に願います。

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