FJのボス、安藤哲也さんにインタビューしました!

私の修士論文の研究目的で、今年2月からファザーリング・ジャパンの理事や会員を対象に、34名のインタビューを行いました。いよいよ、ラスボスです。

ファザーリング・ジャパンのファウンダー(創始者)、安藤哲也さんをインタビュー!

安藤さんのインタビューは様々な媒体で読むことができ、講演や著書でFJの物語が語られています。今回は他では聞けなかった話しを、創業時と転換期、今後のことに絞ってお聞きしました。


FJを立ち上げたとき、どの程度の見通しをもっていましたか?

FJのきっかけは、自分が父親になる前段階。「父親って何するんだっけ?」と思ったときに広岡守穂先生の『男だって子育て』を読んで、「なるほど。男も子育てをすることで自分自身の成長、家族の幸せなど、いろんな展開があるんだな」と気がついた。そのうえで、父親支援が事業化できると面白いなと思ったんですね。

その頃、楽天にいて、ITバブルのなかでマネーゲームやっていて、それはそれで面白かったんだけれど。年齢的に40代になり、お金とか自己実現のための「ライス・ワーク」だけだと、この先の人生あまり面白くない。「ライフ・ワーク」となるような事業をしてみたい。そのときはぼんやりしていたんだけど、父親支援事業をやったら面白いんじゃないかなと。

父親としての自分の葛藤、社会的な支援、両立しづらい働き方。日本ではやっぱり、そういうのが問題なんだろうな。それらの問題が日本中のパパ、ママ、子ども達の成長にも暗い影を落としている。

ちょうどFJを立ち上げた2006年あたりは家庭のいろんな事件、父親が殺される事件などがあった。「自分がそこまでいかない保証はないじゃん」みたいなものもあった。いろいろ考えれば考えるほど、キーを握っているのは「父親」なんじゃないかと思った。

もし父親の意識だったり、働き方を変えることができれば、「ボウリングの1番ピン」みたいにいろんな社会課題が解決というか、いい方向に向かうんじゃないかと思ったのが動機です。

だから、見通しというのは自分のなかではかなり高かったですよ。ブルーオーシャンだったし、誰もまだ気がついていない。ガキの頃に小学校で新しい遊びを思いついちゃった!みたいな、ワクワク感はあったよね。

で、自分のなかである程度企画が形になって煮詰まったとき、周りにいる人たちに相談し始めたのね。その反応がまた面白くって。「これ絶対必要!」という人もいれば「こんなのうまくいかない、日本では」という人もいて。

そのとき「あー、まだ社会の認識というか、父親に対するイメージというのが曖昧なんだな」て思った。でも、そこで時期尚早とは思わなかった。「曖昧なんだったら、その輪郭をはっきりさせようじゃないか」と思ったよね。

20年、30年かかるとは思ったけど「必ず変わるんだろう」というのは見通しとしてはあったね。

見通しとしては20年、30年くらいだったんですね

そうだね。それをどこまで早められるか。そのために、どういう事業推進をすればよいのか。どんなコンテンツでアドバルーンをあげればいいのか。そういったことを考えたよね。

そこでは自分のなかにあるアンテナが研ぎ澄まされて、そこからパパ力検定やファザーリングスクール、イクジイプロジェクト、フレンチトースト基金などの事業が生まれた。

これまで何回も転職していくつも事業を立ち上げたけど、FJの立ち上げは最高にエキサイティングだったよ。経済的リスクもあって本気にならざるをえなかった。やるしかない!と腹が据わったところはあった。

安藤さんの仕掛けるメディア戦略がファザーリング・ジャパンの強みですよね

よく言われるけどね。でも、自分のなかでは、わりと当たり前で。

立ち上げたときはSNSもなかったし、どうやって自分の思いや理念を発信しようかというときに、ブログを毎日書くことで誰かに届けばいい。最初はそんな感じだったよね。

自分で言うのもなんだけど「いいことやってるんだから、もっと宣伝すればいいじゃん」と思った。批判する人もいるだろうけど、自分たちの考えていることはこれからの社会にとってよりよくなることだし。ちゃんとやっている自分たちがプライドをもつことも大事だし。

家族にも理解してもらいたいよね。パートナーにも支援してもらえるような活動にするためにも、メディアに出た方がいいと思った。ママたちが読んでいるメディア、ママ向けの雑誌やネットにいっぱい出たのは、そういう目的が実はあったんだ。

ママに応援してもらえないと活動の精度が落ちるわけよ。パパたちはどこかで後ろ髪ひかれてやっちゃっているからさ。モチベーションもそうだし。やっぱり「パパはいいことしてるんだ」と思われた方がいいし。家を多少空けても整合性がとれるわけだし。

あなたもそうだったでしょ?

外にですぎたのを反省して家に戻りました

そういう往復は、誰でもあるよ。

子育て期は脂が乗っている時期で、やりたがっちゃうんですよね

やりたがっちゃうパパには「家のことが落ち着いてから又戻ってきたらいいじゃん」とアドバイスするよ。

FJの転換期はどのあたりでしたか?

FJを始めた頃は社会的にもいろんな転換が起きていたけど、やっぱりFJが加速したのは「リーマンショック」と「3.11」だよね。この二つの大きな出来事で、男性の価値観が変わった。ぼくらにとっては追い風だった。それは起こるべくして起きたのか、なにか偶々タイミングがあったのか分からないけど。

世の中の大きな事件とか事故、災害とFJの活動はリンクしている。そのなかで父親はどう生きてきたか。その姿を問われるよね。陸前高田市でパパスクールもやったけど、目の色がちがうなと思った。

FJを立ち上げて2年後にリーマンショックがきたじゃない。いろんな意味で「男性が働き手としてがんばる時代ではないな」という予感があった。家庭のことをやった方が、男性自身もハッピーになるなと思ったしね。もし、あのままバブルのままいっちゃってたら、こうなっていない感じもする。

当時、ある商社でセミナーがあって最初の募集で申込が全然集まんなかったんだよ。ところがリーマンショックが起きて、フタをあけてみたら会場が満杯になっているわけ。

そこでパパたちに話しを聞くと「いままで仕事漬け」「家のことは奥さん任せっきり」。リーマンショックで残業がなくなり「お小遣いが減って飲みにもいけない」「うちに帰っても何していいか分からない」。そういう人ばっかりがいた。あ、これだ!と思った。

会社に捧げて依存していれば男性は幸せだった。みかけ上は上手く体裁をなしていたんだけど、それがなくなった瞬間にこうなるんだなと実感したね。これがエポックな出来事になってかなり変わるんだろう、次の世代はこれを教訓とするんだろうと思った。

男性稼ぎ手モデルは、社会全体が右肩あがりで経済成長しているというなかでしか成立しないわけじゃない。リーマンショックはパパたちにとっても大きな出来事だった。

では、今後のことを。FJの落とし所は見えている感じですか?安藤さんの頭の中にはあるんじゃないかと思い

エンディングまで全部シナリオがあるわけじゃないよ。働き方や定年延長といった話題もあるし、父親のいろんな課題は尽きない。どこをもって何をもってゴールとするかはまだ決めてはいない。

というか、俺だけが決めるもんじゃないし。自分なりの青写真みたいなものは持っていたいとは思うんだけど。それも別に上書き可能なわけだから。

でも社会の動きにあったトレンド的なテーマはある。今年でいえば、男性育休がどこまでブレイクするか。男性育休の落とし所としては30%くらい超えないと本当に変わったとはいえない。「男性育休30%」は一つのメルクマールという気はする。

それと、Newミッションとして「父親学級の常設化」。FJ全体でもミッション化したいと思っている。両親学級すらやっていないところは両親学級。やっているところは、もっとバージョンアップして父親に特化したクラスをつくってほしい。

いま提案を進めている自治体があって、そこでロールモデルをつくりたい。

「ほら、父親たちががんばって虐待が減ったじゃん。離婚が減ったじゃん。子どもたちの笑顔が増えたよね」とね。それが見せられれば、最高だよ。

先日インタビューで「あと10年くらいでカタをつける」と発言ありましたが・・

ある意味、ハッタリなんだよ。それを言うことで動きを加速させたい。なんとなく無意識的に言ったもので、勝算があって言っているわけではない。

例えば「イクメンという言葉を死語にする!」とか言うと、ハッとする人いるじゃない。「この人たち、イクメン推進しているんじゃないの?」みたいな、さ。あのギャップが面白くて、言っちゃうんだよね。10周年パーティのときも「20周年で解散します」と言ったら盛り上がったじゃない。そういう逆張りが、俺はガキの頃から得意で。

そういうのをフェイクに感じる人もいれば、「安藤らしいね」と言ってくれる人もいる。自分はそれ以上でもそれ以下でもないし。言うと結構、活字にしてくれたりするからさ(笑)。

「あと10年」と聞いて、ハッとした一人です

この先10年経って「昔、あと10年で解散すると言ってたじゃないですか!」と言われたら「そんなこと言ったっけ?」とたぶん俺は言うと思うよ(笑)。

いつ解散とかは分からないけど、時限プロジェクトであってほしいというのはあるよね。いつまでも俺たちがこんな幅を利かせて取り上げられている場合じゃないでしょ、というのはある。

最後に、安藤さん自身がFJで意識されている役回りについて

そうだね。当初は、コンテンツクリエイターでもあり、かつ、オーケストラの指揮者でもあったと思う。いまはなんだろうな。

FJという一つのバンドのプロデューサー。バンドのメンバー兼プロデュースしているといった感じかな、今。

みんなが、FJというプラットフォームのなかで、その人らしい活動をする。あわよくば、その人の生業になって家庭もちゃんとキープできて、笑っているパパでいてくれるのが一番いい。


1時間ほどのインタビューでした。短い時間でしたが、いろいろな話題がでました。

安藤さんが考えていることを改めて聞いて、ファザーリング・ジャパンの存在意義や方向性を再確認したとともに、私の研究にとっても価値がある内容を伺えました。

ファザーリング・ジャパンは今後、「男性育休」と「父親学級の常設化」に力を入れます。折しも、日経新聞の朝刊に「男性公務員の育休原則」がトップ記事で掲載されました。

ファザーリング・ジャパンが巻き起こす父親旋風。これから楽しみに。

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