黒川祥子『PTA不要論』

PTAへの恨み節が満載の本である。出だしはこのような文章で始まる。

卒業してよかったと、心から思えるものがある。それが、PTAだ。母親たちの愛憎渦巻く、訳のわからない組織に今後一切、関わらなくて済むのだと思うと、安堵の年しか浮かばない。
(中略)
いや、思い返すに最も厄介だったのは、PTAという舞台を使って、自己実現を測ろうとする母親たちの存在だった。会議が多すぎること、平日の昼間に学校へ呼び出されることへの苦情が役員たちから出ているにもかかわらず、前例踏襲の名のもとに、自分たちの好きなPTAを守り続け、その枠に役員たちを嵌め込んでいく人たちがいた。
自分たちは正しいことをしている、子どものためという、揺るがぬ大義名分の旗印のもとに。ならば、PTAで何がしかの存在になりたい人たちだけでやってくれればいいのにと思うのだが、「私たちはこれだけやっているのに、やらないのはズルい」と無慈悲な圧力をかけてくる。

本書の内容は、著者ご本人や友人たちから発せられる「PTAあるある話」。

喉元を過ぎたら笑い話にできるし、他人事として聞いていれば「それは大変ね」と同情を寄せる内容なのだが、現在進行中の当本人にしてみれば悲劇以外の何物でもない。

例えば、こんなエピソード。

「あるイベントを主催しないといけなくて、例年より開始時間を早めたら、『塾があるから、うちの子が参加できないじゃないか!』って、詰め寄られたんです。こっちだってボランティアでやっているのに、こういう文句ばっかり言う人がいるんでる。
それに同じ役員をやる人の中に、PTAやイベントをやることが、自分の存在価値になっているタイプの人がいると、もう大変です。」

こうして「恐怖のPTA伝説」は経験者の嘆きから発祥し、伝播される。PTAをやりたいと思う人が減るのは当然の成り行きだ。

かくいう、私も4月からPTA会長になり、当事者のど真ん中。スリル満載なサスペンス小説を読むより怖い本だった。

私自身が思うのは、PTAは責任ある役目かもしれないけれど、基本は無報酬のボランティア。無理のない範囲で出来ることを出来る限りでやるのがよいし、強制はしない。やらされ感でやっていると辛くなるばかりだから。

本書では恨みつらみだけではなく、提言もされている。
最後の一節を転記。

いよいよ、最後の結ろうに入ろう。ここまで書いて、はっきりと思う。PTAは要らない。国家の意思に連動する保護者組織は、子どもの育ちの過程には不要なものだ。
大事なのは目の前の子どもの現実からスタートする、強制力を持たない保護者の活動なのではないか。それが最も親としての思いに、しっくりする形だと思う。もちろん、国や教育委員会から指導・サポート・動員要請を受けない。学校独自の何らかの保護者組織があってもいい。
できる時にできる人が、無理なく行う。学校行事などのサポートも緩やかな形でできることだろう。
子どもたちが喜ぶこと、子どもたちのためになることを、教員を協力して気持ち良く行なって行く。そんなシンプルな地点に、今こそ立ち戻る時なのかもしれない。

上記にある「国家の意思に連動する保護者組織」の用語は、岩竹陽子著『PTAという国家装置』によるもので、本書でたびたび引用されている。

こちらの本も通読した。PTAの歴史や様々な調査を解説し、学術的な内容。

ただ、著者自身がPTAで経験した「疑問」が根っこにあり、PTA否定が通底している。そして、PTAを否定する根拠としてソーシャルキャピタルの概念や階層構造の解説を持ち出した感があり、言説に偏りのあと感じた。少なくとも、PTA当事者が読んで気分がよくなる本ではない。

ほかにも、PTA本は一つのジャンルができるほど幾つか出版されている。

なかでも、大塚玲子さんがまとめられた『PTAをけっこうラクにたのしくする本』は前掲書とは異なり、前向きなスタンス。PTAの課題が章ごとに整理され、「PTAなぜなぜ」の解説が分かりやすく、私のようなPTA初心者にうってつけの本だった。

「こんなPTAはダメ!」と否定論で済ますのではなく、転換期を迎えているPTAをどのように変革したらよいか、具体的な提案がなされている。各地の現場で実際にPTAの変革を行なった実践者のエピソードや考え方が紹介されて、PTA当事者に勇気づけしてくれる本だった。

いま話題になっているPTA本といえば、テレビドラマの原作小説の『PTAグランパ』。ボスママとシニア男性がバトルする物語。その二人のキャラが立っているが、パート勤めのおとなしい副会長がむしろ気になる存在だった。

PTA会長を経験した人の本も次々と出ている。まだ読んでないけど。

私も喉元すぎたら、PTA本を出すかな。

 

 

 

 

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