荻野達史『ひきこもり もう一度、人を好きになる 仙台「わたげ」、あそびとかかわりのエスノグラフィー』

仙台でひきこもり支援を行う「わたげ」に通いつめた学者による克明な記録。(→社会福祉法人わたげ福祉会WEBサイト

ひきこもり支援の活動内容がユニークで興味を湧くとともに、通所する若者たちのインタビューで彼らの心境の変化が伝わり、筆者自身も一緒に戸惑ったり喜んだりする姿に共感があり。

わたげが様々な施設を増やして機能が充実していく様子と、就労へと巣立っていく若者たちの姿、それを支えるスタッフにたくましさを感じる。希望を与えてくれる本だった。

「自信」と「安心」がキーワード。そのためにも、変にカッコつけようとしないで、みんなの前で失敗したり恥をかくことも大事。失敗しても受け止めてくれる仲間がいるから、安心して自信を取り戻していける。

私が目を引いたエピソードは「腹の底から笑う」という経験の重要性が語られた箇所。

スタッフの憲一さんに、メンバーたちに「ここで経験してほしいことってなに?」と聞いたら、少し考えて、「やっぱり、みんなで笑う、腹の底から笑うってことは絶対にしてもらいたいことですね」といった。続けて、「だからやっぱり安心できるっていうか、そういう場所を感じてもらえれば、その子は、少しずつ、また先に行けるのかなっていう、・・・そうなればいいなって思いますね」と、解釈と希望の入り混じった話をしてくれた。彼は、笑いは安心と結びついており、その安心のできる場が次への土台になると考えているわけであるが、ここにはやはりスタッフとしての経験が反映されているというべきだろう。
「腹の底から」笑えたということは、それまでのスタッフや他のメンバーたちとの関わりや共有されたもの、そこで得られたもの、そのすべてを集約した意味が込められた表現だったのではないだろうか。笑いは様々な状況で、ときに突発的にも生じるものではある。しかし、憲一さんや彼がいう「腹の底から笑う」とは、関わりの中から生まれる安心や、様々な喜びが堆積した思いを象徴しているというべきだろう。「笑い」には、こうしたいわば到達されたものとしての側面もある。
「笑い」は、「関わり」と「安心」の到達点。
やはり、お笑い路線でいいのだな。

この本を読んでいる最中、たまたまランチでご一緒したNPO法人こまちぷらすスタッフに紹介したところ、スタッフ内で小説『かがみの孤城』が流行っていると教わった。

シンクロを感じてKindleで一気読み。

こちらは不登校になった中学生の物語。主人公は中1の女の子。
仙台わたげは20代以降の男性が大半で、小説の世界とは通じない所はあったけれど、関わりと安心はキーワードになっていたかと。

笑いはさほどなかったかな。

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